賃貸保証のプロが集結
有期雇用の教員とは、ちょっとしたことで簡単に職を失い、差し替えられる存在なのだと思い知らされたからだ。
Yさんはフルタイムの有期雇用だが、同じ有期で、労働時間が短い非常勤講師も増えている。
同じ中学で、体育の短時間の有期雇用講師を務めていたOhさん(仮名:二十六)は「若干名募集」の狭き門理と突破し、○八年四月から正規教員になった。
そんなOさんが、有期雇用して、それでも身分保障は弱い。
ギリギリのやりくりの中で、クラスの増減に合わせて教師の数も伸縮自在にすることができる。
授業の質は正規教員に負けないつもりでがんばってきた。
職を失う例まで見てしまった。
不登校の生徒の指導などは、長期の取り組みが必要だ。
担任としてそうした生徒と向き合わねばならないとき、そんな自分が本気で取り組めるか、気力が続くかどうか、不安だとYさんは言う。
このころを振り返って言う。
「非常勤は授業以外のトータルなつきあいが持てず、子どもたちの中に入っていくのが難しかった。
授業のときに来るだけなので、学校の方針や空気がつかみにくい。
難しい働き方でした」。
人件費削減のために、教員を有期雇用化する。
こうした現象は全国的なものだ。
そのしわ寄せが、正規教員にも押し寄せている。
二○○八年三月に開かれた石川県金沢市議会で、Yy市議は、忙しすぎる教員の現状について質問した。
Yy市議も教員出身だ。
かつてと比べると教員には、生徒指導、クレームを寄せる親とのつきあいなど、「見えない仕事」が急増していることに驚くという。
教育委員会や親が「説明責任」を求める動きも強まっている。
その要求にこたえて、いちいち報告書を作成する。
こうした中で、授業の準備をする時間が大幅に削られる。
しかも、現場では有期の非正規教員が急増している。
「見えない仕事」や責任ある仕事は正規教員に集中することが多く、正規教員の間には、過労によるうつ病も増えているという。
もっとも大きい問題は、その結果、教員の本来の仕事であるはずの「子どもと向き合う時間」が減ってしまうことだ。
急増する不安定な立場の非正規教員は、働きやすい環境を求めて声を上げにくい。
減少する正規教員も、仕事の集中で改善を求める余裕がない。
「先生が忙しすぎて子どもの相談にものれない。
先生は子どもを教えるために学校に来ているのに、その時間がないなんて、何かがおかしい」とYyさんは首をかしげる。
人が育たない。
そんな声もあちこちの職場で聞こえ始めていた。
人件費削減に頼る経営が当たり前になるにつれ、働き手を再生産する余裕まで、職場から失われ始めたからだ。
二○○七年、首都圏の公立病院から「天井から水がしみ出している」との通報が寄せられ、Iyさん(仮名:五十四)は駆けつけた。
Iyさんの勤め先は中堅のビル管理会社で、病院の管理を委託されている。
水は、十二階から三階までの天井にしみ出していた。
老朽化した給湯管が十三階部分で破裂、その水が管と床のすきまを伝って漏れ出したからだ。
「またか」とIyさんは思った。
決められた仕様書に沿って空調やボイラーなどの保守点検をするのが仕事だが、破裂した給湯管は、仕様書の点検対象外の個所だった。
そんな点検漏れの配管の破裂は二カ月に一回程度は起きている。
今年に入り、病棟の汚物処理室の床の掃除口から汚水があふれて、患者や見舞客が通る廊下まで水浸しになる事故も起きた。
委託事業は、もっとも安い価格を入札した会社が落札する。
現場を知らない営業担当者が仕様書をつくることも多く、足りないところは現場の自発性が支えてきた。
だが最近は、仕様書にないことはやらない若手が目立つ。
宿直を含む二十四時間勤務で、深夜も病院内を巡回点検し、終わると備え付けのカードに名前を書くが、自分の番はさぼり、後輩の巡回時に「オレの名前も書いて来い」と命じる若手もいた。
看護師にドアが壊れたと言われても、「仕様書にない」と直しに行くのを渋る者もいる。
Iyさんは、経営していた会社が倒産し、今の会社に勤めて約十五年になる。
若手のなげやりな態度が目立ち始めたのは三年ほど前からだという。
談合防止と効率化を目指した価格一辺倒の競争入札が、人件費の比重が大きいビル管理にも及び始めた。
落札できなければ働き手は会社に残れない。
入札ごとに価格は下がり、賃金は月二十三万円程度から十七万円程度になった。
それ以上下げると人が集まらないため、現場の配置人数が減らされた。
病院は、なんでも委託先任せだ。
一方、管理会社は入札に勝つために必死で賃金を下げる。
仕事の質が問われないため、なげやりでも会社にものを言わない社員が重用され始めた。
仕様書になくても点検が必要なのはどこか。
巡回はなぜ必要か。
ノウハウを教えたくても、若手は「評価に関係ない」と耳を貸さない。
人件費がコストの大半を占める産業に低価格競争が広がり、技能の劣化や継承難を招いている。
「息子にも後をつげとは言えない」。
大手建設会社の仕事を孫請けする東京の金物工、Ikさん(仮名:五十三)は言う。
「一人親方」と呼ばれる個人営業だ。
会社員から鉄工所に転職したが、二十五年前に倒産。
工場に出入りしていた職人に誘われ、建築現場で手すりや金属パネルなどを加工し取り付ける金物工の世界に入った。
公共事業でも民間工事でも低価格競争が進み、建設労働者の年収は低下傾向が続く。
○五年には全産業平均より百五十八万円低くなった。
一人親方は、高額な工具の費用に車の燃料費、若手作業員の賃金まで自分持ちだ。
月収五十万円はないとやっていけないが、最近は月収三十万円程度はざらだ。
建設会社から「原価割れだけど我慢して」と言われ、次の注文を期待して引き受ける。
ある親方仲間は、サービス残業までして月収二十万円だったとき、妻に「今月は休んでいたの?」と聞かれ、思わず泣いた。
建設会社は機械をリースするので、安くするために工期を短くしようとする。
雨が降っていても「やんだらすぐ工事を」と言われて出勤した。
ぬれると感電が心配な工事も、乾くまで待たずに強行した。
○七年暮れ、ビルの高所の機械室に防音壁をめぐらす工事で「強度がもたず風で壁が倒れかねない」と指摘した。
建設会社は「工期がある」と無視。
その後、強風のため壁は倒れたが、けが人が出ず表沙汰にならなかった。
そんな現場で高齢化が進む。
五十歳以上の建設就業者の割合は○六年に四割を超え、三十歳未満は九六年の一三%から一五%に減った。
若手をじっくり教える余裕がなく、それ以上に雇うカネがない。
不法就労や研修生の中国人頼みだ。
ここ数年は、賃金が上がらない若い世代を狙って、土地込みで二千万〜三千万円程度の低価格一戸建て住宅も広がる。
その価格水準を実現するため発注企業は、引き受ける親方の収入を絞り込む。
「こんなことを続けていれば、今ある建物を補修できる人もいなくなる。
そのとき、お客さんはどうするんだろう」とIkさんはつぶやく。
二○○六年、大手住宅会社のPhは、同社の仕事を請け負う親方の一部に、後継者育成の助成金を出す「大工技能者育成制度」を始めた。
だが一方で、同社の広報担当は、「住宅は部材の改良で工事が簡単になり、高技能者はそんなにたくさんはいらない。
業界の賃金低下はそんな変化も理由だ」と言う。
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